研究概要 |
負の誘電異方性を持つ液晶(MBBA)に電場を印加すると,ある電圧でロール状の対流が出現し,電圧の増加と共に揺らぎを伴う対流,格子状対流,動的散乱モード1(DSM1),動的散乱モード2(DSM2)へと複雑な乱流に変化する。本研究では,液晶対流の構造観測とレオロジー測定を同時に行い,液晶電気対流の存在および液晶の配向欠陥(disclination:トポロジカル欠陥の一種)と粘性との関連性を解明することを目的とした。 前年度までの研究で,電気対流が誘起される低周波領域では,対流は電圧の増加に伴って激しくなり,粘性が一旦増加してその後減少するという特異な現象が起きることがわかっていた。粘性の増加については,配向場を歪ませるdisclinationが数多く発生する事で説明可能であるが,粘性の減少については説明できない状況であった。また,粘性が最大となる電圧と配向欠陥が大量に出現するDSM1からDSM2への転移との関連性も分からなかった。 本年度,流動下でDSM1からDSM2の転移電圧を観測したところ,転移電圧と粘性最大電圧の関連性は無く,粘性の減少はDSM2領域で起きることがわかった。また,高電圧下で新しい対流が発生することも無かった。さらに,MBBA以外の負の誘電異方性液晶でも同様な液晶電気対流と粘性の関連性があることがわかった。そこで,粘性の減少は配向欠陥や対流構造そのものと関連するのでは無く,マックスウェル応力に相当する力が働いていると予想し,液晶の粘弾性理論に基づいてこの応力の大きさを評価したところ,観測した粘性減少を与える程度の応力であることがわかった。MBBAに正の誘電異方性を混ぜて誘電異方性を変えた試料を作成して粘性を測定したところ,平均の誘電異方性が正になると粘性の減少は観測されなくなった。これは,上記の予測の妥当性を示している。
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