研究概要 |
強いカオス力学系では、軌道は非常に不規則になり、初期値鋭敏性を持つ。不変測度を用いると、軌道がどこに滞在しやすいかという確率分布を知ることができる。この不変測度が規格化できない場合、それは無限測度と呼ばれ、通常のエルゴード性とは異なる分布の極限定理が成立する。本研究では、非双曲系におけるいわゆる弱いカオスとして近年注目を集めている無限エルゴード系の普遍則の探求と、それを基礎にしてハミルトン系の典型的なSlow dynamicsの統計則を決定することを目標にしている。 まずハミルトン系におけるArnold拡散は、現在までLog-Weibull則に従うことが知られており、今年度は、Log-Weibull則に従う系での統計量の収束について精密に決定し、それがl-stable lawで記述できることを導いた(Shinkai-Aizawa,2010)。この収束過程の知見から一般のハミルトン系における著しく弱いカオスの性質も同定できるものと計算を進行中である。次に、どのような観測量に注目するかによって無限測度の性質が抽出できるか、という問題を解いておく必要があるため、従来のリャプノフ指数の概念を拡張して、一般的観測量についての収束過程を整理し、劣指数的不安定性によって無限測度性が判定できるという重要な結果を理論的に導けた(Akimoto-Aizawa,2010)。以上の結果から現在は、ランダム力学系や高次元への拡張に取りかかっている情況である。
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