H22年度に実施したグリーン-久保形式を用いた平衡分子動力学法による精密で大規模な計算の統計的な手法を検証することにより、従来から一般的に実施されている非調和近似に基づくフォノン熱伝導計算の手法との関係を明らかにする成果を得た。この結果は本研究における大きな目的である従来のフォノン熱伝導計算手法と粒子法に基づく計算手法との関係を明らかにすることに合致するため、H23年度当初計画を変更してこの研究を実施した。 H22年度では4000個の粒子を用いる平衡分子動力学計算により、熱流束の自己相関関数からパワースペクトルを計算し、フォノン周波数の分布の構造を明らかにした。しかし、その結果に対し粒子依存性に対するコメントがあったため、粒子数を864個から順次増加させた計算を実施し、また統計的アンサンブル平均の取り方についても検証した。その結果、粒子数2048個で粒子数に基づくゆらぎが無くなることを見出すとともに、時間相関のゆらぎへの影響はアンサンブル平均を多くとる事により消失することが分かった。この結果を基に粒子数2048個のシミュレーションでより、低温から高温(液体まで)にかけて固体アルゴン(LJポテンシャル)の正確なパワースペクトルを導出することに成功した。尚この研究では古典モデルの妥当性を調べることが目的のため、量子効果は入れていない。更に従来から行われているフォノンに基づく熱伝導計算の基礎になっている4次までの非調和項展開を行った原子間ポテンシャルを用いて、粒子法による分子動力学計算を行い、LJ系との結果を比較した。今までの研究では50K付近を越すと分子動力学による計算が破綻し。その原因が分かっていなかったが、今回はアンサンブル平均を取る手法によりシミュレーションを実施し、融点直下の70Kまでの計算に成功し、LJ系と非調和系の計算との比較及び調和系の計算が初めて可能になり、どの様に近似が悪くなっていくかが明らかになった。
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