研究概要 |
本研究では,極低温原子気体における双極子相互作用の効果を理論的に明らかにすることを目的としている.今年度の研究成果は以下の通りである.(1)双極性原子気体の有限温度における熱力学的性質について,特に量子統計性の違いがもたらす効果に着目し,研究を行った。基底状態においては先行研究により双極子相互作用の異方的なFock交換項が異方的な運動量分布を引き起こすと考えられている.一方,実験的には極性分子気体の生成には成功しているものの,量子縮退する低温領域までは冷却できていない.本研究では,有限温度における双極子相互作用の効果を評価するために,Bose系,Fermi系両方の場合について半古典分布関数に対する変分計算を用いて平衡状態における熱力学性質を議論した.相互作用,ポテンシャル,温度等,系のパラメータの変化に対して位相空間分布の異方性がどのように変化するか詳細に調べ,量子統計性の違いに対する効果も明らかにした.この研究結果は論文誌Physical Review Aや日本物理学会などで発表した.(2)光学格子中に閉じ込められた双極性Bose原子気体における量子相転移および集団運動を調べた.Bose-Hubbard模型に対して時間依存Gutzwiller近似を用いて解析した結果,パラメータの変化によって超流動,CDW,超固体等の相が出現することや,それぞれの相におけるダイナミクスが特徴的な振舞いを示すことを見出した.この研究結果は日本物理学会で発表した.(3)Fermi原子気体の正常相におけるダイナミクスをBoltzmann方程式に対するモーメント法を用いて解析し,動的構造因子の計算を行った.(4)凝縮相にあるBose気体のダイナミクスを解析するために内部自由度を持つBose凝縮気体の運動論を導出した.
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