過冷却液体のガラス転移の本質はまだ未解明であり、いわゆる平均場描像すらも確立していない。最新の描像によれば、温度を下げる、あるいは密度を上げていくとまず一次相転移的な動的転移が起こり、さらに低温、高密度側に熱力学相転移点が存在すると考えられている。この描像の有限次元版がいわゆる、ランダム一次転移理論である。この描像の正当性を確かめるためには、理論そのものを検証することと、数値シミュレーションによる定量的な検証が必要である。我々は、その両方を行った。理論的検証についてであるが、平均場描像によると、モード結合理論(MCT)が、動的転移点付近のダイナミクスを記述し、その背後にある静的なエネルギーランドスケープはレプリカ理論が記述すると信じられてきた。しかし、それを液体論のレベルで確かめた研究は無かった。我々は液体論特有の近似に惑わされることなく理論の整合性を調べるために、動的転移点の高次元での次元依存性を調べた。その結果、MCTとレプリカ理論は、互いに矛盾していることを突き止めた。またその矛盾の背後には、MCTが破綻していることが原因であることを定量的な解析により明らかにした。シミュレーションによる検証ついては、柔らかい相互作用系のガラス転移の解析を行った。多くのガラス転移研究においては、短距離斥力を持つ「普通の液体」がモデル系として調べられることが多かった。一方、平均場描像を検証するためには、平均場極限として長距離相互作用系を考えることが有効である。長距離相互作用のモデルとして、我々は、緩やかな斥力テールを持つガウス型相互作用の液体を考えた。この系は高密度極限で、互いにオーバーラップして実行的な長距離相互作用系となる。我々は、大規模なシミュレーションによりこの系が単成分であるにも関わらずガラス化すること、そして動的不均一性が抑えられ、平均場的なダイナミクス挙動を示すことを、初めて示した。
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