平成22年度までの研究によりα7中間会合体におけるサブユニット置換現象が存在することを世界で初めて確認できた。その成果に基づき、本年度は、この現象をより詳細に解明することに取り組んだ。 軽水素化2重α7リングと重水素化2重α7リングの80%重水溶液中で混合における中性子小角散乱強度の経時変化の測定では、 1.ゼロ点散乱強度は、初期値の0.8程度で強度減少が停止する。 2.ゼロ点散乱強度の経時変化は、2つの減衰指数関数で表現される。 事が詳細解析より判明した。1に関しては、3回同様の実験を繰り返し確認した。この結果と計算機Simulatonから、置換可能なサブユニットは1つの2重リングあたり、2つの置換可能なサブユニットが存在することが判明した。(この結果は、1つのリングあたり1つの置換可能なサブユニットの存在を強く示唆しており、この事は同時にα7リングの構造非対称性の可能性も示唆している)一方、2に関しては、この現象に2つの時定数の異なる反応が関与している事を示唆している。この事を解明するために、これまで考えてきたサブユニット交換反応に加え、サブユニット交換活性-不活性反応が存在していると仮定した。つまり、活性状態のサブユニットだけが交換可能であり、また、サブユニットは交換活性-不活性状態を一定の時定数で繰り返していると言う仮定である。(このような反応は、酵素などの結合反応に良く見られる)この仮定のもとに計算機Simulationを行ったところ、サブユニット交換.の時定数と活性-不活性反応の時定数の比が、5.5:1であることが判明した。 本研究は、タンパク質のサブユニット交換現象をその存在証明を含めて動態解析を行った初めての例であり、また、中性子小角散乱を用いてのみ実現可能な研究であった。そのためこの成果は高く評価され、米国のBiophysical Journalに掲載された。
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