水は、ありふれた物質であるが、沸点が高い、4℃で密度が最大になる、比熱が大きいなどの多数の異常な性質を示す。水はまた、生体内、岩石、地殻、ツンドラ地帯の土壌中にも存在し、その性質に重大な影響を与えている。惑星や彗星等、宇宙空間にも水は存在する。これらの水の一部は極微小の領域に存在する。本研究では、小さな空間に閉じ込められた水の性質、特に、分子2、3個程度の原子・分子スケールからバルク水につながる、水の性質の空間サイズ依存性を明らかにすることが目的である。 本研究では、直径が1~3ナノメートルのカーボンナノチューブ(CNT)を用いて、その疎水的ナノ空洞内への水の吸着と相転移挙動を、X線回折、核磁気共鳴、分子動力学計算などの手法を用いて調べている。従来の研究では、直径が1.1~1.4nmのCNTの空洞内部に水は容易に吸着され、吸着された水は低温で液体-固体様の相転移挙動を示し、低温相がアイスナノチューブ(ice NT)となること、さらにice NTの融点がCNTの直径が大きくなるほど低下すること、などを明らかにしている。一方、~2nm以上のCNT内部の水は、CNT直径に反比例するような、相転移様挙動線を示し、原子・分子領域から、バルク領域へのクロスオーバー現象を示唆している。本年度は、このクロスオーバー領域の水の構造を分子動力学計算とX線回折実験により詳細に調べ、(1)この領域では、CNTの有限長効果のため、吸着量に依存して、形成される水の構造が変化し得ること、(2)バルク領域側で見られる相転移線は、細い領域の液体-固体様相転移とは異なっている可能性があること、などが示された。また、(3)ice NTが自発分極を有する強誘電性を示し、外部電場によって電気分極をステップ状に変化可能であることなどを、計算機シミュレーションの手法により予測した。
|