「炭素の窓」波長領域を用い、低温状態で生きた状態の試料を観察することを目的としている。これを可能にするため、H22年度は、軟X線顕微鏡の改造とラベリングの検討を主におこなった。 予定通り、新軟X線顕微鏡チャンバーをビームラインに導入し、試料ステージとホルダーの接合部の治具を改良し、2D観察とCT観察のステージ交換が簡単にできるようにした。 D.radioduransのラベリング剤としてテルルの検討を行った。テルルは生物の生存に必須ではなく、細胞毒性があるが、多様な生物がテルル蓄積に関わる遺伝子を持ち、D.radioduransも細胞内にテルルを蓄積しつつ生育できる。テルルをラベリング剤として利用するため、細胞内におけるテルルの蓄積状態を、テルルのL吸収端(2.1nm)を利用した軟X線顕微鏡法で調べた。L吸収端より短い2nmでは、細胞中に大きさの異なる複数の顆粒状の濃密構造体が認められた。一方、L吸収端より長い2.4nmでは、2nmで見られた顆粒状構造体と同位置に、一部コントラストが著しく不鮮明な顆粒体が認められた。この顆粒体は、透過型電子顕微鏡観察で見られるポリリン酸の存在形状に酷似していた。ポリリン酸は、細胞中で負の電荷を持ち、正の電荷を持つ有害金属元素を捕捉し、細胞毒性の少ない形で蓄積することから、D.radioduransの菌体に取り込まれたテルルは、細胞質中で特異的な凝集構造体あるいはポリリン酸に捕捉された状態で存在していると考えられる。今後、テルルの凝集構造体がポリリン酸に依存するのかどうかを明らかにし、テルルのラベリング剤としての可能性について検討する。
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