前年度では、プレート最上部や海洋モホで発生したPs変換波から東北地方のマントルウエッジと海洋性地殻のS波偏向異方性を調べた。Ps変換波のS波偏向異方性は、それが伝搬した経路の異方性を受ける。例えば、海洋モホで発生したPs変換波は海洋地殻、マントルウエッジ、大陸地殻の異方性の影響を受ける。従って、このPs変換波から海洋地殻のS波偏向異方性を推定するには、マントルウエッジや大陸地殻の異方性の影響を取り除かなくてはならない。22年度はこの影響を取り除くための解析方法の開発を行った。水平成層構造の各層に六方対称の異方性を仮定して合成したP波レシーバ関数のPs変換波にS波分裂解析を行い、各層のS波偏向異方性の向きと大きさを推定した。その結果、第1層(表層)と第2層の境界で発生したPs変換波にS波分裂解析を行うと第1層の異方性を推定できることが確認された。しかし、第2層と第3層の境界で発生したPs変換波を同じ方法で解析しても、第2層の異方性を見積もることが困難であることが分かった。これは、対象としたPs変換波が第1層の異方性を強く受けるためである。そこで、第1層の異方性の影響を、新しく開発した「剥ぎ取り法」によって補正し、補正後のPs変換波にS波分裂解析を施したところ、第2層のS波偏向異方性を正しく推定できることが判明した。第2層以下の層についても、同じように補正を行えば各層の異方性の推定が可能であることが分かった。さらに、レシーバ関数がノイズで汚染された場合もノイズ除去を行えば、剥ぎ取り法によって各層の異方性の見積もりが正しく行われることが分かった。今後は、この方法を中国・四国・九州地方に見られるPs変換波に適用しその方法の有用性を検討した後、東北地方のPs変換波に適用して大陸地殻、マントルウエッジと海洋性地殻のS波偏向異方性の地域的な変化を調べる予定である。
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