研究概要 |
地球磁場強度の変動を明らかにすることは,地球磁場による太陽風や宇宙線に対するシールド効果を通じて気候や生態系に及ぼす影響を解明するために重要である.海洋地殻は過去約1億年間に海嶺でほぼ連続的に噴出した玄武岩類によって形成され,冷却した時の地球磁場の強度を記録している.潜水艇によって採取された海底玄武岩の試料群より海嶺からの距離が異なる地点で得られた枕状溶岩を選択して採取するが,本年度はできるだけ海嶺軸に近い若い年代をもつ枕状溶岩を対象とした.試料収集には保管庫に赴いて試料を検分し,表面にガラス質が残っていることを確かめ,無斑晶質,斜長石の斑晶を含むなどできるだけ様々な岩相の枕状溶岩を得た. 収集した枕状溶岩を表面に平行に厚さ約2mmに薄切りし,薄切り試料の一部を磁気ヒステリシス並びにキュリー温度の測定のために用いた.磁気ヒステリシス測定は試料振動型磁力計を用い,通常のヒステリシスパラメータだけでなく多磁区粒子の割合を示すTED値の測定も行った.キュリー温度は熱磁気天秤を用いてAr雰囲気中で700℃まで加熱して求めた. 磁性鉱物の格子定数を求めるため,試料を粉砕して磁選し,X線粉末回折法によりチタノマグネタイトもしくはチタノマグヘマイトのピークを同定して格子定数を求めた.化学組成が既知である合成試料について測定されたキュリー温度と格子定数のデータを基にして,枕状溶岩の薄切り試料について組成を求めた. 薄切り試料に方位をつけ,石英製の試料容器に入れて石英ウールで固定し,地球磁場強度を求めるためテリエ法を適用した.加熱中の試料の変質を避けるために,石英管に試料を入れて真空もしくはArガスで管内を置換した上でコイル付の熱消磁炉で消磁と着磁の実験を温度を25℃ステップで上げながら繰り返した.試料の変質をチェックするため,各温度ステップで磁化率の測定を行い,部分熱残留磁化テストも行った.
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