研究概要 |
地球磁場強度の変動を明らかにすることは,地球磁場による太陽風や宇宙線に対するシールド効果を通じて気候や生態系に及ぼす影響を解明するために重要である.海洋地殻は過去約1億年間に海嶺でほぼ連続的に噴出した玄武岩類によって形成され,冷却した時の地球磁場の強度を記録している.海嶺からの距離が異なる地点で得られた枕状溶岩を選択して採取することを昨年度まで行ってきたが,本年度は比較すべき対象とするため陸上に分布し同様の化学組成をもつ最近噴出した玄武岩溶岩の測定を進めた,陸上の玄武岩溶岩の試料採取のために伊豆諸島の三宅島に赴き,過去500年間に噴出した溶岩に対して,上面のクリンカー部から塊状部を経て最下部のクリンカー部まで全ての岩相をカバーするように試料を採取した. 採取した溶岩試料は残留磁化測定のため実験室で1インチの円筒状に加工し,円筒試料近傍の試料を磁気ヒステリシス並びにキュリー温度の測定のために用いた.地球磁場強度を求めるためのテリエ法を自動で行うためのスピナー磁力計を導入し,制御するソフトウェアの開発を行った. 体積の上で溶岩の大半を占めテリエ法に用いられることが多い塊状部は加熱時に不安定な振る舞いを示し,地球磁場強度を求めることができなかった.溶岩の岩相のうち実際の地球磁場強度を記録していたのは上部および下部のクリンカー部の試料のみであり,特に下部のクリンカー試料からは広い温度範囲から信頼できるテリエ法の結果を得た,クリンカー部と他の岩相の違いは磁性鉱物の相と粒径にある.クリンカー部では500℃以上のキュリー温度をもつ一相のみであり,その粒子サイズは単磁区粒子の範囲に入る.この磁気的性質はクリンカー部から得られる地球磁場強度の信頼性を保証している.
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