小惑星は太陽系の衝突進化に於いて常に中心的な役割を果たして来た天体である。その中でも地球に接近して衝突の可能性すらある天体は地球接近小惑星と呼ばれ、活発なサーベイ観測の対象となっている。本研究では天文観測と理論的な数値シミュレーションおよび惑星地質データから得られた知見を組み合わせる見地からこの問題に取り組み、小惑星の衝突現象とクレーターの起源、そして地球の初期史に関する新しいシナリオを構築する。 近地球小惑星は現在数千個が知られているが、この数は現在の観測技術で検出できるものに過ぎない。実際に地球近傍に存在する小惑星の数はこれを大幅に上回るものと予想される。その数量を推定するため、私達は月面クレーターの非対称分布から衝突天体の速度分布を推定する数値実験を開始した。月面には光条クレーターと呼ばれる若いクレーターが多数存在するが、地球に対する月の相対軌道運動によりその分布は月の前面と後面な非対称な様相を呈する。この分布を定量的に解析すると、月-地球の周囲には相対速度の小さな天体群が観測値よりも多く存在していることが示唆される。更に、実際の観測結果から想定される近地球小惑星群から出発して月-地球系への衝突を模擬する数値実験を行ってみると、それは光条クレーターの非対称分布と合致せず、何がしかの未検出天体の存在が示唆されることが判明した。これは将来の太陽系天体の大規模サーベイ計画に対する重要な指摘であり、今後は更に詳細な調査を計画している。
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