前年度までに西岸境界流の続流ジェットから波が放射されることで表層に極向きの渦位フラックスが生じることが示されたが、深層では逆に赤道向きの渦位フラックスが生じ、そのしくみは未解明であった。そこで、表層にジェットの不安定擾乱を模した一定な振動数を持つ強制を与える数値実験を行った。強制の振幅が十分弱い場合には、三波共鳴により、振動数が外部強制の2倍のharmonicsの波が発生した。harmonics に対する非線形強制は傾圧性が強く、深層では波を打ち消す方向に働くために、赤道向きの渦位フラックスが生じる。この特徴は強制が強くなっても定性的に変わらず、Rhines and Young (1982)で想定された乱流混合的過程は本質的でない。harmonicsにより4つのセルを持つ平均流が生じ、その向きは再循環と一致する。ジェットを与えた数値実験でも、高周波数の擾乱によって同様の赤道向き渦位フラックスが卓越する。 次に、ジェットから放射された波動が海底斜面上に入射し平均循環を作るしくみを斜面の勾配の水平方向が一般的な場合について調べた。波の位相速度の等深線に沿った成分が浅い方を左手に見る場合には、地形波は斜面上に入射できない(Rhines 1970)のに対し、右手に見る場合は、入射した波が屈折によって強く海底に捕捉され散逸される場合と、捕捉されずに反射される場合の2つがあることが理論的に示された。地形上で波が散逸される場合は、浅い方を右手に見る平均流が形成され、平均流は等深線が東西方向であれば、比較的順圧的であるが、等深線が南北に傾くと海底捕捉が強まる。波動が地形上に入射できなかったり、反射される場合は、海面に弱く捕捉された平均流が浅い方を右手、左手交互に見る方向に生じる。これらの波と平均流の特徴は黒潮続流の北にある海膨で観測されたものとよく一致する。
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