研究課題
前回2010年8月に観測したCO2吸収を利用した大気波動検出はICARUS誌に投稿し、今年4月に受理された。査読者の要請に従って、放射輸送・スペクトル解析の手法を改良した結果、高度60 km付近における大気波動の姿が明らかになってきた。この60 kmという高度に意味がある。これまで、大気波動の観測は昼面の紫外散乱光による高度70 kmと、夜面の赤外熱放射光による高度50 kmに限られていた。それらの中間高度にあたる60 kmにおける大気波動の検出は、このような波が大きな役割を担っていると予想される大気超回転現象の加速メカニズム解明に貴重な情報をもたらしうる。また、同じく同時に観測していた雲上方のもや層に関しても、あてにしていた「あかつき」からのデータが数年間入手できなくなったため、これも欧州の金星探査機Venus Express搭載のSOIR分光計からのデータを援用することとし、院生をブラッセルに3か月派遣して情報収集にあたらせた。この結果はその院生が4月の欧州地球科学連合大会で発表した。このSOIRデータにおける発見部分を軸として、この院生の博士論文としようとしたが、各種の不充分点が指摘され、現在はそれらの検討・対策を進めており、今年末に再挑戦を予定している。平成24年度には内合後の7月にハワイ・マウナケア山頂のNASA・IRTFを用いて金星夜面の大気光による大気波動検出と昼面散乱光による酸素同位体比の測定を試みた。さらに次の内合前の平成25年11月に再度の観測をすべく提案書を3月に提出した。
2: おおむね順調に進展している
「あかつき」とのデータ比較検討は周回軌道投入失敗のためこの先数年間は不可能となった。しかし、地上観測では(経験を積んだ結果)悪条件を効率的に避けることができるようになり、順調にデータ取得・論文化が進行している。既発表査読論文の内容は大気光3編・微量気体2編・大気波動1編・同位体比1編と多岐にわたっている。また、一昨年度より欧州金星探査機Venus Express搭載のSOIR/SPICAV分光計のチームとの連携を開始し、現在は主に金星上部もや層の統計処理を院生が博士論文の主軸とするべく進めている。
「あかつき」のデータは周回軌道再投入が行われる2015年末までは入手できないが、観測再開に備えてデータ処理方法・処理体制、そしてなによりも気力を保っておかねばならない。そのため、自前の地上観測にVenus Expressのデータを絡めた視点からの研究をさらに展開・発展させていく必要がある。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (16件)
ICARUS
巻: 220 ページ: 552-560
doi:10.1016/j.icarus.2012.04.027
巻: 219 ページ: 502-504
doi:10.1016/j.icarus.2012.01.024