研究概要 |
北海道に分布する新生代始新世の炭層を例にして,石炭内の炭化水素ガス濃度を明らかにし,変形や機械的破壊にともなう炭化水素ガスの挙動を解明することが本研究の目的である.これまでに,パルス放電ヘリウムイオン化検出器(PDHID)を用いた石炭中の無機有機ガス同時分析法を確立させ,北海道美唄地域の三美炭鉱に露出する始新世亜瀝青炭を例に,炭層の破壊にともなって水素,一酸化炭素,メタン,二酸化炭素,エチレン,エタン,プロピレン,プロパン,イソブタン,ブタンが有意に放出されることを明らかにした.本最終年度は,破壊にともなって放出されるメタンガスの資源ポテンシャルを明らかにするため,実験室で亜瀝青炭を加熱熟成させ,残留するガスの組成と濃度,および炭素,水素安定同位体組成の変化について検討した.美唄層亜瀝青炭(Ro=約0.5%)を325℃で24時間,350℃で48時間,窒素雰囲気下で加熱し残留ガス濃度とメタン,二酸化炭素の炭素・水素安定同位体比を測定した.加熱された石炭中の残留ガス濃度は急増したが,残留ガス濃度に大きな差は認められなかった.これは生成したガスの多くが石炭から排出されたためである.また,残留ガスでは通常の熱分解ガスと比較してメタンの相対濃度が小さく,メタンがより排出されたことを示している.これはガスの排出にともなってガスの組成分別が生じていることを示している.メタン,二酸化炭素の炭素・水素安定同位体比はいずれも熟成度の高い残留ガスほどより大きな値を持っている.メタンの炭素同位体比は初期値-19.7‰から,-14.5‰,-9.8%と大きく変化し,メタンの排出にともなって大きな同位体分別が生じていることが初めて明らかになった.
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