研究概要 |
(概要)沈み込み帯深部の脱水および融解過程は、深発地震、島弧マグマの成因に深く関わっている。三波川エクロジャイトは、マントルまで沈みこんだ海洋プレートの断片と考えられており、沈み込み帯深部での変成、変形過程を解析するのに最適である。しかし三波川エクロジャイトは著しい加水後退変成作用を受けており、野外露頭、岩石薄片から得られるピークの変成作用の情報は限られている。本研究では(21年度)詳細な野外地質調査に基づく部分融解組織の記載、SEM-EDS,EPMAを用いた岩石薄片の記載、解析を行い、部分融解組織を解明した。さらに22年度は岩石中からジルコン結晶の分離を行い、部分融解時に成長したジルコンの特定、内部累帯構造、ジルコン包有鉱物の同定を完了した。23年度は、2次イオン質量分析計(SHRIMP)を用いたジルコンU-Pb微小領域年代測定を行う。マントル深部への沈み込み過程におけるP-T-Time経路における脱水作用、部分融解の役割を解明することが目的である。 (成果)部分融解組織を示す三波川エクロジャイトの発見により、岩石記載を詳細に行った。その結果、沈み込み帯深部での含水鉱物(フェンジャイト)の分解による部分融解過程を明らかにした。さらに採取した岩石中からジルコン結晶の分離に成功した。部分融解領域に存在するジルコンは円形で均質である。一方、エクロジャイト中のジルコンは楕円形であり累帯構造が顕著、包有鉱物に富む。部分融解領域のジルコンはメルトとともに成長した可能性がある。 (意義、重要性)本研究は、三波川エクロジャイトが上部マントルで部分融解がフェンジャイトの分解により引き起こされたことを初めて明らかにした。これまで冷たい海洋プレートの沈み込みモデルでは、含水鉱物の脱水分解によりマントルウエッジが加水されるととが強調されてきた。温かい海洋プレートの場合、角閃石の分解に伴う部分融解の重要性が高圧実験から指摘されてきたが、フェンジャイトの脱水分解に伴う部分融解の重要性が本研究で明らかとなった。また、部分融解組織中から分離されたジルコン結晶からメルトや脱水流体の化学的特徴、温度圧力条件等の推定が可能である。 (23年度の研究予定)ジルコンのSHRIMP U-Pb年代測定、REE濃度分析を行う。これにより、ジルコン成長時の温度圧力条件、変成作用と部分融解の時間的関係、が明らかとなる。さらにメルトや流体組成の特定のため、メルト領域、エクロジャイト構成鉱物に対する高精度同位体分析を行う。
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