福井県越前海岸地域に分布する新第三系国見層中の下部扇状地成の地層に、反砂堆起源の低角度波状斜交層理がよく発達する。これらの低角度斜交層理には大局的に見て2つの産状がある。1つは泥岩と互層する薄層砂岩中にみられるもので、扇状地縁辺において河川流路の側方規制を解かれて緩斜面上に溢出したシート洪水流によって形成されたと考えられる。他の1つは上方細粒化を示す厚い砂岩層の最上部にみられるもので、洪水期に河川流路内の砂州上に形成された反砂堆が急速な減水のために保存されたと考えられる。2つの産状の間で、低角度斜交層理に形態上の差異があることが確認された。これはそれぞれの斜交層理を形成した反砂堆の形態に差異があったことを意味する。古流向にほぼ平行な断面において、ラミナの形態を検討することにより斜交層理を形成した反砂堆の波高/波長比を求めた。その結果、波高/波長の値がシート洪水流起源のものでは0.098~0.140であるのに対し、流路内砂州起源のものでは0.025~0.082であり、両者に有意な差が認められる。つまり、シート洪水流起源の反砂堆は波長に対して起伏が大きく、流路内砂州起源の反砂堆は起伏の小さな緩やかな形態をなしていたとみなされる。一昨年度に実施した実験研究では反砂堆の波高/波長比は水深に規制され、水深が深いほど波長が長く波高/波長比の小さな,ゆるやかな形態をもつ反砂堆が,水深が浅いほど相対的に振幅の大きな形態をもつ反砂堆が形成されることが明らかになっている。国見層中のシート洪水流起源の反砂堆と流路内砂州起源の反砂堆の形態上の差異は形成時の水深の違いを反映している可能性が高く、一般に水深が極めて浅いシート洪水流では波高/波長比の大きな、より水深の深い流路内洪水流では波高/波長比の小さな反砂堆が形成されたと考えられる。
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