研究概要 |
本課題は,泥質堆積物のテフラ分析(火山ガラス屈折率測定)である.当初の計画では,濃尾平野内の地盤沈下観測井に保管されているボーリング・コアを分析する予定であったが,収集に時間がかかる懸念があったので,大学の予算で掘削したコアの一部を分析した.このボーリングは濃尾平野臨海部(鍋田干拓地)で行われ,掘削長は約63m,沖積層基底礫層を掘り抜き,基底は熱田層下部の海成粘土層の上部に達している.分析に供したのはこのうちの下半部のコア41試料(交付額のほぼすべて.1試料は大学の予算)である.分析結果からは濃尾層に挟まれる広域テフラの姶良Tnテフラ(AT)の検出が期待されるが,現在,鋭意解析中である. 一方,平成21年度の分析結果は,「濃尾平野東部の地下地質」と題して,平成22年7月に,日本地質学会の論文誌『地質学雑誌』に投稿し,現在査読中である.本稿の主要な成果は,以下の3点である. (1) 琵琶湖底に挟まれているB75-2テフラが,熱田層下部海成粘土層(D3L)に挟まれており,その層準は,臨海部ではD3L下部,東部ではD3L上部にあたり,D3Lの堆積は東が早く,日は遅れた. (2) 熱田層の下位の海部・弥富累層には,阿多鳥浜テフラ(Ata-Th)を挟む厚い(10~15m)海成粘土層が認められる.濃尾平野は西に傾動しており(濃尾傾動地塊),平野東部では傾動による沈降が小規模であるにもかかわらず,このような厚い海成粘土層が堆積していることが何を意味するのか,今後の課題である. (3) 濃尾平野は,西への傾動を継続的に続けて来たと考えられているが,上記の(1)(2)の事実から,傾動運動は間欠的であった可能性があり,この点についての検討の余地が生じている.
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