本研究では、現生生物を対象とした研究からは決して得ることができない、海底の物理・化学環境の激変で形成された無生物状態の海底環境に底生動物が参入し新たな群集が再生・回復・発展するプロセスを、生痕化石の検討に基づいて底生動物の生態学的・行動学的変遷過程をより長いタイムスパンのもとで検討・把握という観点から解明を試みる。その際、急速堆積イベント後の海底環境安定期に新規参入した群集回復期生痕化石を正確に識別するとともに、それら生痕化石の切り合い関係(cross-cutting relationships)を検討することで、形成者の海底への参入順序を復元する。これらのデータに基づき、底生動物が無生物の海底環境に参入し、異なる生活形態のステージを経て新たな群集が形成されていくプロセスを、質的に異なる堆積イベントと環境に応じて比較検討するとともに、総括することを目指す。このような研究は、欧米では地質学的条件が整わないこともあり遂行が難しく、本研究による成果が欧米研究者へ新たなインパクドを与えることをも目指している。 平成22年度は、重力流堆積物流入により不安定な海底環境が継続した和泉層群(徳島県鳴門市と兵庫県南淡路市)と熊毛層群(鹿児島県屋久島町)に重点をおいて本格的調査を実施した。前者に関しては、極めて重要な新知見が得られ、成果の論文執筆(英文誌)を行い近日中に投稿できる状況である。後者は、23年度も継続的調査が必要である。また、前年度の研究成果の執筆最終段階であり、完成し次第国内外の査読誌4誌(全て英文誌)に投稿する段階である。22年度は、宮崎県の口蹄疫、鹿児島県霧島岳噴火、東日本大震災の影響で予定の野外調査が充分できず、その分は23年度に実施することとした。
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