本研究課題による研究は、短期間に海底環境の物理・化学的環境が変化したことが、底生動物群集にどのような影響を及ぼすかを、地層に記録された生痕化石の解析から解明するねらいがあった。特に本研究では、物理的環境の変化(physical disturbance)に着目して検討をおこなってきた。本年度は、本研究の最終年度であることから、これまで得られた結果の再検討と論文化に比重を置いた。再検討については、極めて重要な化石試料を得ることができた徳島県鳴門市の和泉層群、宮崎県日南市の日南層群、同県串間市の都井層群について、産状や追加試料採取を実施した。また、産出化石の一部は、世界的にも稀なものであったため、慎重な現地観察と採取を行い、無事成功した。この生痕化石は過去には植物化石として世界的に認知されていたものであり、今回の研究で生痕化石であることが証明された。その化石標本は、地方自治体の博物館や大学付属博物館に収蔵されているため、それら標本を再検討することもおこなった。最終年度であるため、採取データの確認にとどめたが、概ね良好なデータが取得されていることが改めて確認された。特に、この様な視点からのアプローチが、過去に起きた生物大量絶滅後の回復過程を理解する際に極めて有用であり、重要なデータが取得できたと考えている。 今年度のもう一つの目的である論文化は、現在4つの論文(邦文査読誌2編・欧米査読誌2編)を投稿している。そのうち邦文誌2編はminor修正との判断であり、現在修正中である。近日中に受理されると考えている。欧米誌はまだ査読中である。学会では、2012年9月に大阪府立大学で開催された日本地質学会において、成果の一部を発表した。
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