カンブリア紀最初期に起きた多細胞動物の急速な進化の実態を化石記録から探るため、カナダ・ニューファンドランド、中国貴州省・雲南省、そしてモンゴル・ゴビアルタイの各地域に分布するカンブリア系最下部とそこから産出する生痕化石群、小型有殻化石を採集、観察した。その結果、以下の事項が明らかとなった。1.ニューファンドランドのカンブリア系基底付近のTreptichnus pedum帯とRusophycus avalonensis帯で、生痕化石の多様度、密度分布は2段階の増大を示すことが分かった。またこのころ異なる環境に対応した生痕相は成立していないこと、微生物マットの表面に付着するタイプの生痕は生じていないことが明らかとなった。2.中国雲南省のカンブリア系基底部付近の小型有殻化石を詳細に観察し、その中に有顎動物(ヤムシ)の顎器と考えられる化石が含まれることが明らかになった。このことから、当時の中層水に捕食動物であるヤムシが存在していたことが示される。3.中国貴州省に分布するカンブリア紀初期の後期の地層であるChintingshan層(浅海成)と、同時期のBalang層(前者よりやや沖合の地層)の生痕相を比較した結果、異なる生痕相が認識され、このころまでに異なる環境に対応した生痕相が成立していたことが示唆された。
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