研究概要 |
平成23年度は,北海道の達布・古丹別・羽幌地域に分布する白亜系上部蝦夷層群を中心に,本邦の中生界で菱鉄鉱ノジュールおよびそれに関連するSphenoceramus naumanniの産状を調査した. その結果,上部コニアシアン階の菱鉄鉱ノジュール中,およびサントニアン階の泥岩母岩中から,例外的に生態情報がよく残されたS.naumanni化石群が産することがわかった.この化石群は数個体~50個体よりなり,両殻が揃うバタフライ型や合弁で産するばかりでなく,通常は保存されない非常に薄く壊れやすい後耳(ear)がよく保存されているのが特徴である.殻のサイズ分布は多モード型であり,異なる年齢群が識別できる可能性がある.これらは当時の個体群が瞬時に固定されたセンサス群集である可能性が高い.いずれにしても底生生物の活動に不適な環境下で,逆に生態情報を保ったままの化石群が保存されているという逆説的な結果が得られたことは,今後,イノセラムス類の古生態を復元する上で重要なヒントとなる. 一方,異常巻アンモノイドの殻サイズの増大と菱鉄鉱ノジュールの分布との関係については,両者の関係を示唆するデータが得られつつあった.しかし,一昨年秋の集中豪雨で観察対象の露頭が埋没したため,その後十分なデータ数を得ることができず,確証を得るには至っていない. 他方,本研究の過程で,糞粒ペレット濃集層において遺骸の軟体部がリン酸カルシウムにより交代され,3Dで保存されるという別の化石化プロセスがあることがわかった.この発見は予想外で,これまで全くノーマークであった化石化過程である.よって,今回の基盤研究(C)の成果は,菱鉄鉱ノジュールの成因に加え,今後,リン酸カルシウムによる軟体部3D保存の解明[基盤研究(B),No.24340129]を進めてゆく上でも重要なヒントとなる.
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