富山深海長谷から採取された13mのロンクピストンコアのタービダイトの頻度・層厚変化、粒度分析、有機炭素・窒素分析及び花粉分析を行った。その結果、過去25万年間の堆積物中の花粉組成に10万年周期の寒暖の陸上気候の変化が記録されており、タービダイトは寒冷期から温暖期に向かう時期に頻度・層厚・粒度ともに増加していることが判明した。このタービダイトの増加は、北アルプスにおける氷河の発達と融解による砕屑物の供給の増加に対応している可能性がある。タービダイトに含まれる有機炭素量とC/N比との間には正の相関があり、陸起源の有機物の寄与が多いほど有機炭素量も多くなることを示唆している。このことから、タービダイト中には、陸上植物により有機炭素の形で固定された二酸化炭素が多量に蓄えられていると考えられる。また、タービダイトにより海底に固定される有機炭素は急激な温暖化の時期ほど多いことになり、定性的には海底扇状地が地球温暖化に対して負のバッファーとなってきたことが裏付けられた。このほか、IODPの熊野沖の南海トラフで掘削された中新世の堆積物について鉱物組成分析を予察的に行い、タービダイトの供給源についての情報を得た。 本年度の研究実施により、これまでほとんどデータのなかった最終間氷期以前の中部日本の陸上気候の記録を初めて連続的に解明するとともに、長周期の氷河性気候変動に対応した中部日本の陸上気候と深海のタービダイト・有機炭素固定能力の応答の関係の一般的なモデル化に資するデータが得られた。
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