研究概要 |
本研究では,ゼノフィオフォアの1)資源利用や他の微小生物の生息場所としての深海底における生態学的な意味,2)形態的に異なる2つの細胞質の機能的な違いや部位ごとの元素濃集の意味とその役割,3)有孔虫類の初期進化,を明らかにすることを目的とした。本年度は,よこすかYK09-12/しんかい6500による調査潜航を計画・立案し,実施し,S2サイト(北緯39度06分,東経143度53分,水深5349m)にて潜航を行った。また本年度は,これまでに得られた成果を論文に公表するとともに,学会等で成果を公表した。 分析で使用したゼノフィオフォア(Shinkaiya Lindsayi)は,既知のゼノフィオフィオフォアSyringammina corbiculaと姉妹群を形成し,単室形有孔虫との近縁性を示した。このクレードは有孔虫類の系統樹の中でも根元に近く,また,単室形の有孔虫から複雑な形態を示す種に派生する過程のものであり,有孔虫の様々な殻形質への進化や房室形成の意味あるいは石灰化過程の進化を考察する上で有効な材料となる。本種の膠着性の"殻"の内部には,性質の異なる2種類の黒色と白色を呈するチューブ状の細胞が存在した。黒色を呈する細胞は周囲の堆積物に比べAl,U,Baが濃集しているのに対して,白色の細胞にはHgの濃集が見られることから,何らかの元素濃集の機構が存在していると考えられる。機構内共同研究として,伊豆-小笠原海溝深海底(水深7111m)において採取されたゼノフィオフォアの"殻"と周囲の堆積物間のバクテリア相の違いを明らかにし,特定の種類がゼノフィオフォアに存在していることを明らかにし,ゼノフィオフォアとバクテリア間での物質のやり取りなど,生物間の相互作用が示唆される。
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