研究概要 |
ゼノフィオフォアは,その個体サイズが10cmにもなる単細胞真核生物(有孔虫類)であり,その大きさや複雑な形態ゆえに,他の生物の基質となることから,深海底における物質循環や生物間の相互作用の観点からも興味深い対象である。Gooday et al.(1993)は,深海底に設置したカメラによりゼノフィオフォアの行動を観察し,堆積物食であることや,その成長が散発的かつ急激に起こることなどを報告した。この成長様式は,貧栄養かつ高い溶存酸素環境に適応したゼノフィオフォアの成長戦略と密接に関係している可能性が高い。一方,Levin et al.(1999)やLevin and Gooday(1992)などは,北西大西洋の850mにおける現場培養実験や生物の種多様性などから,ゼノフィオフォアは,深海底において物質循環には大きくは貢献しないが,ゼノフィオフォアとそれに蝟集する生物群集の地域的なホットスポットとしての重要性を指摘した。しかし,その生態については不明な点が多い。 本年度の研究では,深海底におけるゼノフィオフォアの餌資源利用と形態との間にどのような関係が見られるのかを検証するために,現場培養ラベル実験を行い炭素・窒素同位体比分析を行った。解析に用いた試料は,鳥島東方沖深海底(5,371m)において,よこすかYK11-06/しんかい6500の潜航調査において採取した。現場培養実験では,炭素ラベルしたグルコースと窒素ラベルした珪藻(Pseudonitzschia sp. NIES-1383)を現場培養装置に添加し,2日間の培養を試みた。その結果, 1)5,371mの深海帯でラベル実験が成功した 2)粒子状・溶存態有機物のどちらも短期間で取り込む 3)真核生物に取り込まれた粒子状物質のうち,そのほとんどがゼノフィオフォアに捕集されている可能性がある 4)対照群の個体は,堆積物とほぼ同様の同位体比を示した。以上の結果から,ゼノフィオフォアは,突発的な沈降有機物に素早く反応し,餌資源を効率的に捕集し利用することで,急速な成長を促すことが示唆された。
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