研究概要 |
今年度は,沼津市教育委員会の協力のもと興国城跡遺跡において旧石器遺物と自然環境の関係性を具体的に調査するために,水成堆積物の地質ボーリング調査を行った.ボーリングの深度は約10メートルに達したが,最深部近くの植物片の年代測定の結果は,縄文時代にしか達していないことが判明した. 一方,本研究は,今年度が最終年度であったことから,3月に研究発表会を開催し,3年間における旧石器,植物相,動物相などのについて討論を行った. その結果,武蔵野台地や愛鷹山麓で確認される技術適応戦略の変化はMIS3からMIS2への気候変動と大まかには対応することが確認された.この時期には落葉広葉樹を含む針広混交林から針葉樹林への変化が指摘されているが,MIS3では落葉広葉樹林が含まれ,動物にとって豊富な食料があるとともに,針葉樹林よりも道具資源として利用しやすい木材も含まれていたとされる.そうした植物相の変化は,考古資料から推定した狩猟採集民の技術適応戦略の行動変化と非常によく一致する. 一方で,動物相については,大型哺乳動物の絶滅がMIS2に入ってから起こっている.そうした動物相の変化が当時の人々の技術適応戦略の内容とどのように関わっているのかは十分に考察する材料に欠ける.本研究の期間中には,愛鷹箱根山麓の考古資料から,後期旧石器時代前半期における狩猟活動に関わる検討が進められてきたが,道具資源の利用や移動居住形態の変化に加えて,動物資源の獲得に関わる狩猟活動の内容も大きく異なっていたと推測された.
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