研究概要 |
下部マントルにおける鉄のスピン転移は,下部マントル構成相間の鉄の分配やダイナミクスを考える上で非常に重要である.しかし,下部マントルの主要構成相であるMg-ペロブスカイトとポスト-Mg-ペロブスカイト中の鉄のスピン転移についてはいまだに不明な部分が多い.そこで我々は,Alを含む両相中のFe^<3+>のスピン転移について,X線発光分光法(XES)とX線回折法(XRD)で調べてきた.その結果,平成22年度には以下のことが明らかになった.Mg-ペロブスカイトでは,50GPa以下の低圧,室温ではFe^<3+>はAサイトを占めて高スピンであるが,50-60GPa以上ではアニーリングにより一部のFe^<3+>がBサイトのAlと席を交換して低スピンになり,アニーリングするに従ってその割合が増える.一方,Aサイトに残るFe^<3+>は200GPa(室温)に至っても高スピンのままであった.また,ポスト-Mg-ペロブスカイトでは,~165GPa,2100Kで合成後の室温ではFe^<3+>はBサイトを占めて低スピン,AlはAサイトを占めていると思われるが,この試料を室温で減圧しながらスピン状態を調べると,約100GPaあたりから徐々にXESパターンが低スピンに向けて変化していった. 以上のことより,下部マントルにおいては,ペロブスカイトでは低圧ではFe^<2+>,Fe^<3+>ともAサイトを占めてともに高スピンであるが,50-60GPa以上の高圧ではFe^<3+>はBサイトのAlと席を交換して低スピンになるのに対し,Fe^<2+>はAサイトを占有し続けて高スピンのままであると思われる.それに対し,ポスト-Mg-ペロブスカイトでは,Fe^<2+>はAサイトを占めて高スピン,Fe^<3+>はBサイトを占めて低スピンとなっていると思われる.
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