研究概要 |
上部マントル物質を構成し微量元素を主に貯蔵する単斜輝石のみならず、斜方輝石やかんらん石のRb-SrやSm-Nd同位体組成を得る事は、リソスフェリックマントルで起きた化学的プロセスの年代を得るために重要である。こららの鉱物について分析を試みたところ、Rb-Sr同位体組成を得る事は出来たが、Sm-Nd同位体組成は濃度が低く、精度良い分析は行えなかった。しかしながら、当該年度に実施した分析によって、Yoshikawa et al.(2010)では1試料のみしか見出していなかった、九州の火山岩類のSr-Nd同位体組成域と重なるかんらん岩捕獲岩を複数見出した。さらに最も肥沃した同位体組成を持つ試料は、(1)母岩の玄武岩より低いNd同位体組成を持ちEM1マントル成分と一致するものと(2)基盤花崗岩類のSr-Nd同位体組成域にプロットされ、苦鉄質グラニュライトとほぼ一致するものが認められた。九州から中国大陸に産する新生代の火山岩類にはEM1成分の関与が推測されており(例えばHoang&Uto.,2003)、リソスフェリックマントルがEM1成分を持ち母岩とは異なるマグマによって汚染されたことを示し、従来火山岩の研究から推測された火山岩類と上部マントルとの密接な関係を改めて確認した点で重要である。また、基盤花崗岩類は花崗岩類としては年代補正後のSr-Nd同位体組成が比較的枯渇しており、上部地殻混合の影響が少なく下部地殻から上部マントルを起源物質とすると推測されている(大和田ほか,1999)が、今回得られた結果は黒瀬の上部マントルが花崗岩類の起源物質となりうることを示しており、マントル捕獲岩を研究することによって花崗岩類の成因に制約を与えることができたという点で重要である。
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