第一原理計算によりカルシウムフェライト型MgAI_20_4とCaAl_2O_4の格子振動モードの計算を行った。計算結果の解析から、全ての振動モードにおける原子の動きが明らかになった。その結果を用いてラマンピークの帰属を行い、さらにラマン不活性な振動モードにおいてはラマン活性モードと同じ原子の動きをするモードは同じグリューナイゼン定数を持つと仮定することにより、全ての振動モードを考慮した熱的グリューナイゼン定数が決定された。 ラマン測定と格子振動モード計算の結果を用いて格子振動の状態密度モデルを作成し、得られた熱的グリューナイゼン定数と合わせてKiefferモデル計算を行うことにより、カルシウムフェライト型MgAl_2O_4とCaAl_2O_4の定圧熱容量および格子振動エントロピーが決定された。 特に、カルシウムフェライト型MgAl_2O_4の定圧熱容量とエントロピーは、高圧高温下でのMgO+Al_2O_3=MgAl_2O_4CFの相境界線の熱力学計算に適用され、下部マントル条件下において沈み込む海洋プレート内に存在すると考えられているカルシウムフェライト型MgAl_2O_4の安定領域を熱力学的に検討することができた。さらに、本研究による定圧熱容量の計算手法はマントル深部物質として重要なスピネル型Mg_2SiO_4の研究に適用され、高温熱容量の決定に重要な役割を果たした。なお、この研究の過程において、等温体積弾性率、体積に加えKiefferモデルにより計算される定積熱容量および熱的グリューナイゼン定数の情報があれば、実測では精度良く決定することが難しい熱膨張率もかなりの信頼性で見積もることが可能であることが分かった。このため、本研究の手法は、定圧熱容量やエントロピーの推定のみならず、熱膨張率の推定にも適用されることが期待される。
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