海底メタンハイドレートは、温暖化ガスの巨大なリザーバーであり、気候変動との関連で注目されている。海底コアの掘削調査では、メタンハイドレートは層状、粒状、塊状、分散状などの多様な形状で見つかる。ところが、堆積物モデル中での生成実験は分散状の微結晶を作りだすのみであり、多様な形状の生成要因は未だ理解されていない。メタンハイドレートの生成実験の困難は成長速度が極めて遅い点にある。本研究ではこの困難を克服するためにハイドレート化に最適な組成の水-テトラヒドロフラン(THF)系を用いるという独自の工夫を行った。さらに独自の工夫として、堆積物モデルとしてガラスビーズを使用した。堆積物の粒径は分布をもつので、粒径の異なるガラスビーズを混合した。このビーズの混合比とハイドレートの成長速度を変数として一方向凝固実験を行った。自然界での成長を再現するには、低速での長時間実験が重要である。一昨年の研究では、低温の実験装置に霜が徐々に付着して観察が困難になるという問題と、THFが接着剤を分解するため実験用セルが破損するという問題により長時間実験は困難であった。また、使用していた駆動系では成長速度の下限値は0.4μm/sであった。装置の気密性と実験用セルの対THF性についての対策を徹底的に行い、10日以上の連続実験を行うことを可能とした。さらに駆動系をより高精度なものに交換することで成長速度の下限値は0.04μm/sまで到達した。これにより低速での成長をその場観察した非常に重要なデータを得ることに成功した。以上により本研究ではハイドレートの多様な形状を全て再現することに初めて成功した。また、形状と生成条件の関係を表すダイアグラムが完成した。さらに氷の霜柱の形態形成理論を応用して、それぞれのパターンの形成過程の定性モデルを提案した。この研究成果は、結晶が経験してきた環境変化の履歴情報をハイドレート形状から読み出す糸口になる可能性がある。
|