研究概要 |
本研究の目的は水分子の重水素濃集に対する星間塵表面反応の寄与を実験により定量化することである.本年度は水分子生成プロセスのひとつとして考えられるOHラジカルと水素,重水素分子の反応について調べた.反応物がすべて水素の場合,反応式はOH+H_2→H_2O+Hである.この反応は発熱で,気相では3000K相当の活性化エネルギーを持つ.そのため,低温氷表面ではトンネル反応による同位体効果が期待される.H_2OもしくはD_2Oガスをマイクロ波放電で解離しOH(OD)ラジカルを生成した.このときのガスの解離率はおよそ80%以上であると見積もられた.ODラジカルとH_2ガス,OHラジカルとD_2ガスをそれぞれ10Kの低温基板に蒸着したところ,前者ではHDO固体の生成が確認されたが,後者では生成されなかった.この結果はOD+H_2→HDO+Hが進む一方でOH+D_2→HDO+Dが起こらないことを示している.両反応には活性化エネルギーに大きな違いはないため,反応の有無は反応の実効質量(effective mass)の違いがもたらすトンネル反応の同位体効果によるものと考えられる.実際の宇宙空間ではD_2の存在量は多くない.今後の実験で,OH+HD→HDO+Hを調べることにより,この反応系が星間水分子の重水素濃集に寄与し得るかを確認する.
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