本研究の目的は太平洋およびインド洋のマンガンクラスト中のネオジム(Nd)と鉛(Pb)の時系列データからグローバルスケールでの古海洋、古大気循環像を新たに構築することである。そこで、初年度は海水試料中のNd同位体比の高感度分析手法の確立およびサンプリングに重点的に取り組んだ。 Nd同位体比の高感度分析を実現するためには、表面電離型質量分析計(TIMS)による測定の際に効率良くNdの酸化物種(NdO^+)を発生させる必要がある。レニウムフィラメントにNdを単に塗布し測定を行うと、通常Ndの金属種(Nd^+)のみが検出される。そのため、NdO^+を発生させるにはNdと一緒にその発生を促す物質(アクチベーター)を塗布する必要がある。Ndの標準試料(約15ナノグラム)を用い様々なアクチベーターでの検討を行った結果、タンタル(Ta)が最も効果的であることがわかった。さらには、フィラメント上でNdをTaでサンドウィッチ状に挟み込むように塗布することでより効率的にNdO^+が発生することが明らかとなった。 一方、Nd同位体比測定用の海水試料のサンプリングは、2009年12月から2010年1月にかけて西インド洋および南極海において実施された学術研究船白鳳丸のKH-09-5次航海で行った。試料は1000m以浅では20リットル以上、それ以深では10リットル採取した。船上で試料に鉄と酸を加え、しばらく放置した後アンモニアを添加し鉄の水酸化物を形成させNdを共沈させた。その後、上澄みを抜き取り全体量を減らし陸上に持ち帰った。また、同位体比測定用の試料他に、Nd濃度分析用の海水試料(各深度1リットル)も採取した。
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