研究概要 |
前年度に引き続き,ピストンシリンダー型高圧発生装置を用いて,水に飽和した系でMgカンラン石を合成した.これまでの経過では,リチウム約1000wt.ppmおよび水約7wt.%を含む出発物質から合成したカンラン石のリチウム濃度が典型的なマントルカンラン石に比べて10~20倍も高濃度であったため,リチウムおよび水の量が異なる出発物質(約100wt.ppm,約15wt.%)も用いて実験を行った.温度圧力条件は,900℃,2GPaとし,加熱時間を110~336時間とした. 合成カンラン石のリチウム濃度は,依然として典型的なマントルカンラン石に比べて10倍程度高かったため,さらにリチウム濃度の低い出発物質を準備することも検討する.また,最長336時間の実験を行ったが.カンラン石-流体間におけるリチウムの分配・同位体分別のパラメータは,前年度までの結果と調和的であり,出発物質中のリチウムや水の濃度によって有意な影響を受けていない. 合成したカンラン石結晶内の元素拡散を検討するため,単結晶内のリチウム同位体組成も分析したが,有意な組成勾配は確認されなかった.また,天然のカンラン石中に不純物として微量に含まれるアルミやリンなどが,リチウムの分配・同位体分別,および拡散のパラメータにどのように影響するかを検討するため,上記微量成分のSIMSによる定量方法の改良を行った.結果,10ppm程度のアルミを約10%の再現性で定量できたが,SIMS分析における,イオンビームのスポットサイズは5~10ミクロン程度であり,現状では,合成したカンラン石中の元素拡散を評価できるようなプロファイルはとれない.今後,合成カンラン石単結晶の分析試料を準備し,結晶表面から深さ方向への分析を視野に入れて,分析計画を検討する.
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