研究概要 |
本研究は,100fs電子バンチにより試料内にテラヘルツ帯チェレンコフ放射光を誘起させ,放射光の発生特性から試料のテラヘルツ帯複素屈折率を評価する新しい分光法を開発するものである.研究計画初年度である本年度は,100fs電子バンチ発生の研究を行った.電子バンチが発生する放射光の周波数帯域を広げるためには,電子バンチのパルス幅を短くしなければならない.本年度はマグネシウム陰極にTi : sapphireレーザーの3倍高調波および2倍高調波を照射して電子バンチを生成し,それぞれの場合の遷移放射発生特性を比較した.2倍高調波照射時には2光子吸収過程により光電子が発生するので,照射する光子数に対する発生電子数の非線形性により,3倍高調波照射による1光子吸収過程の場合より電子バンチのパルス幅が狭くなることを期待した.電子バンチ生成実験では両照射条件で所要の電荷量50pC/pulseを実現した.またこの実験では,超短電子バンチ電子銃の飽和電流密度が,(1)CW電子ビームに対する理論値の50倍以上に達すること,(2)印加電圧の0.5~0.7乗に比例し従来のCW電子ビーム理論と異なった特性を示すことが解った.この点については,現在理論解析を行っている.この電子バンチを50keVまで加速し,アルミ板に衝突させ遷移放射光を発生させた.それぞれの光電陰極動作条件において70~90GHz帯のマイクロ波検出器を用いて遷移放射光を測定したところ,電子バンチの電荷量が非常に大きいことも手伝い,高強度の放射が観測できた.また予想通りマイクロ波領域では顕著なスペクトルの違いは観測されず,テラヘルツ波帯の分光装置が必要であることが解った.この装置については平成22年度に構築し,本研究に供する.
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