研究概要 |
本年度の主たる成果は,(1)超短パルス電子バンチ生成技術の確立,(2)チェレンコフ放射光発生技術の確立,(3)放射光測定に用いるテラヘルツ時間領域分光システムの完成である. (1)超短パルス電子バンチ生成技術 昨年度までに電気量900pCを発生できる電子銃を開発した.本年度は,まず,このような大電気量電子バンチを生成できるメカニズムを理論的に明らかにし,査読付き国際論文誌にて発表した.(Space-Charge Limitation of a Femtosecond Photoinjector, Int. J. Optics)また,電子バンチの電気量が飽和電気量の60%に達すると急激にバンチ幅が伸びだし,飽和電気量に達するとバンチ幅が14psにまで伸びることが実験で解った.この結果から,バンチ幅を2psに抑えることができる電気量100pC以下の条件で放射光発生実験を行うべきであることが解った.電子バンチ電気量とバンチ幅の関係は,現在シミュレーションと比較しており,検討完了次第,発表する. (2)チェレンコフ放射光発生技術 誘電体としてシリコンを用い,放射光発生実験を行い,放射光の発生を確認した.電子バンチの加速エネルギーが30kVを超えると,放射光が発生することを確認した.このエネルギーは計算上の放射光発生閾エネルギーとよく一致しており,本研究課題の原理を実証できた.電子バンチの一部がシリコンに衝突し,シリコンが帯電してしまうため安定な放射光発生ができなかったが,これをシリコン表面に金属細線を蒸着することで解決した. (3)テラヘルツ時間領域分光システム(テラヘルツTDS) 試験光を用い,本システムがパルス幅4psの放射光を時間分解能30fsで測定できることを確認した.電子バンチ発生装置との同期を取り,チェレンコフ放射光測定を開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の主目標は,(1)放射光強度が最大となる電子バンチ発生条件の洗い出し,と(2)異なる誘電体から発生される放射光のスペクトル測定であった.しかし,実験項目(1)の遂行中に,電子銃飽和領域で電子バンチのパルス幅が急激に長くなるという現象を発見した.このメカニズムの解明は主目標からは少し離れるが,本研究の基盤である電子バンチに関する重要な現象であり,かつ学術的にも報告例のないものであり,相当な時間を割いて研究した.そのために,放射光スペクトルを測定できた誘電体は1種に留まった.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により確立した,(1)超短パルス電子バンチ生成技術,(2)チェレンコフ放射光発生技術,(3)放射光測定技術を組み合わせ,今後は誘電体材料による放射特性の違いを重点的に調査する.
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