研究課題/領域番号 |
21540514
|
研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
浅川 誠 関西大学, システム理工学部, 教授 (30280704)
|
研究分担者 |
山口 聡一朗 関西大学, システム理工学部, 助教 (30413991)
|
研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | テラヘルツレーザー / 高輝度電子ビーム / フォトカソード / テラヘルツ分光 / High-K材料 / フェムト秒電子バンチ |
研究概要 |
主たる成果は(1)電子バンチの電荷体積密度が急激に下がる動作条件の発見,(2)チェレンコフ放射の発生基礎過程の定式化および(3)放射光測定テラヘルツ時間領域分光(TDS)システムの自動化による測定時間短縮である. 放射光発生実験のため電子銃出力部に電子バンチコリメータを取り付けた.コリメータ通過後の電子バンチの径は,電気量が小さいうちは電気量とともに増加した.しかし電気量が電子銃の飽和電気量の40%を超えると,バンチ径が一定値を保つ現象を発見した.この原因は,この電気量を超えるとパルス幅が急激に伸びることであった.さらに,パルス幅は電気量の3乗に反比例して伸びることがわかった.電気量を高く取りすぎると,放射光強度に大きく影響を与える電荷密度が急激に下がるのである.加えて,シミュレーションコードを開発し,この超短パルス電子バンチ特有のパルス幅伸長現象/電荷体積密度低下現象を再現できるまでに至った.詳細なメカニズムは現在実験とシミュレーション結果を照らし合わせ,解明中である.この研究を通して,電子バンチのパルス幅を0.5psから6psの間で自在に調整できるようになった.放射光誘起に使える電気量は0.8pcから10pCである. 誘電体板を2枚対向配置した場合のチェレンコフ放射光のスペクトルおよび強度を定式化した.誘電体厚さが放射光の分散関係を支配しており,放射光の中心周波数が誘電体厚にほぼ反比例することがわかった.この成果を研究論文として公表した. TDSシステムでは,ロックインアンプおよび光路長調整ステージの制御を統合することでデータ収集の自動化をはかり,測定時間を短縮できた.またシステム全体のレイアウトを見直し,測定の再現性も向上した.現在は,電子ビームの加速エネルギーが放射光発生閾値にまで下げられた際に発生する微弱放射光を測定すべく,感度向上につとめている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
誘電体試料の表面近傍を通過する超短パルス電子バンチが誘電体試料内に誘起するチェレンコフ放射光の放射特性から試料の誘電率を推定することが,本研究で開発している新規分光法の原理である.放射特性の中でも最も重要な事項は,チェレンコフ放射を誘起できる最低の電子バンチ加速エネルギーの測定である.この閾値が,複素屈折率の実数部を決定する.当研究課題で開発してきたTDSシステムを用いて閾エネルギー測定を試みたが,このような状況で発生する放射高強度は微弱であり,現状のTDSシステムの感度では測定が難しい.放射光集光系を改良するとともに,閾エネルギー測定専用の計測システムの構築に取り組んでいる. また,電子バンチパルス幅測定実験を通して,電子銃を飽和に近い状態で動作させると,電子バンチのパルス幅が急激に伸び,電荷体積密度が低下する現象を見つけた.シミュレーション結果からは,空間・運動量空間の6次元体積に対する電荷密度が低下していることがわかった.これは電子ビーム物理の基礎であるリュービルの定理から外れるものであり,フェムト秒電子バンチ特有の現象であると考えられる.本年度は,放射光強度にも密接な関係のある本現象のメカニズムの究明に時間を割いたこともあり,研究計画は予定より若干遅れている.
|
今後の研究の推進方策 |
チェレンコフ放射を誘起できる最低の電子バンチ加速エネルギーを精密に測定することを目標に,ボロメータを用いた微弱放射光測定システムを構築する.これまでに開発したTDSシステムの測定結果およびチェレンコフ放射発生に関する計算技術とあわせ,複素屈折率測定技術を確立する.
|