本年度の主要な成果は,超短パルス電子バンチが放出するコヒーレントなチェレンコフ放射光を観測したことである.光の位相速度を下げるために使用した誘電体はシリコン(厚さ0.65mm,幅5mm,長さ110mm)であり,誘電率から計算したチェレンコフ放射が発生するしきい電子加速エネルギーは27keV程度ある.このシリコン板表面近傍を電子バンチが通過する際に発生する波長0.2mmから4mm領域のチェレンコフ放射光のエネルギーを今年度導入したボロメータを用いて測定した.電子バンチのエネルギーを35kVに固定し,電子バンチの電気量を1pCから350pCまで変化させ放射光出力を測定したところ,放射光出力は電子バンチ電気量の1.6乗に比例して増加した.電子バンチ長さが光波長より十分に短い状態での,コヒーレント放射光出力は電気量の2乗に比例する.実験で観測された1.6乗則は電子バンチ長が,電気量の増加とともに増える事によるものと考えれる.昨年度開発した電子バンチ長さ評価システムおよび電子の軌道を追跡するために開発したParticle in Cellシミュレーションコードの結果によると,電気量が1pCから350pCまで増加するとバンチ長は0.2mmから1.3mmまで伸びる.従って電子バンチ電気量が大きくなるとコヒーレント効果は弱まる.観測された1.6乗則は,低電気量領域では2乗則に,高電気量になるにつれ1乗則に近づいていったものと解釈される.電子の加速エネルギーを徐々に落としてゆくと,25keVで放射光は確認されなくなった.このように,理論的に予想されるチェレンコフ放射しきい加速エネルギーと実験結果は,ほぼ一致した.本研究で提案したテラヘルツ分光法の基本原理は実証できたといえる.しかしながら,しきい加速エネルギー領域では放射光出力が低いため,時間領域分光システムによるスペクトル測定は出来ていない.
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