金の極薄膜ターゲットを用いた新型試料ホルダーを開発し、生細胞への高効率なX線照射を実現することにより、培養中の生細胞の瞬時撮像を実現した。新型試料ホルダーは、ホルダー内に試料をセットした状態で光学顕微鏡と軟X線顕微鏡による観察が可能となるよう工夫することにより、透明ガラス基板上に成膜したX線感光材(PMMA)上に細胞を直接培養し、培養中の生きている細胞の光学顕微鏡(位相差顕微鏡、蛍光顕微鏡)像と軟X線顕微鏡像の取得を可能とした。 マウスの精巣ライディッヒ細胞をPMMAフォトレジスト上で2~3日間培養を行い、培養液を含んだ状態で試料ホルダーに封入し、倒立型蛍光顕微鏡のステージ上にのせ位相差顕微鏡像と蛍光顕微鏡像による撮像を行った。細胞にはあらかじめ、DAPI、マイトトラッカー、ファロイジンによる蛍光標識を行っておくことにより、細胞核(クロマチン)、ミトコンドリァ、アクチンフィラメントの蛍光像を取得するとともに、位相差顕微鏡により細胞内の構造の光学顕微鏡像を取得した。蛍光顕微鏡及び位相差顕微鏡による撮像の後、試料ホルダーを軟X線顕微鏡用の真空容器内に設置し、細胞の軟X線像を取得した。これら一連の作業は、細胞を試料ホルダーにセットした状態で行うため、完全に同じ状態の細胞の各種顕微鏡像が取得できる(マルチカラーイメージング)。 細胞の位相差顕微鏡像、蛍光顕微鏡像、軟X線顕微鏡像を直接比較することにより、細胞内小器官の詳細な構造の解析を行った。その結果、細胞骨格とミトコンドリアの相関関係や細胞核内のクロマチン構造等が明らかとなった。このように、生きている細胞の生の状態での詳細な内部構造を高解像度で直接観察する手段を世界で初めて開発することに成功した。本研究成果は、平成23年8月17日に新聞発表を行い、朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、産経新聞、科学新聞等の主要各紙をはじめ、多数の新聞に掲載された。
|