溶媒和クラスターは、少数の溶媒分子によって取り囲まれた分子(溶質)からできるクラスターであり、溶質の周りの溶媒を部分的に切り出した、いわばナノスケールの反応場といえる。しかしながら、溶媒クラスター内に閉じ込められた分子の光によるイオン化実時間ダイナミックスについての情報は極めて限られている。これは、クラスター内のイオン化では、様々な反応チャンネルを経て反応生成物へ向かうため、実験的に、その複合的な反応過程を解析するのが困難であるためであること、および反応が極めて高速であり、実験的には生成物しか観測できない理由による。 本年度では、ダイレクト・アブイニシオ分子動力学法を用いて、溶媒和クラスター内での反応ダイナミクスを理論的に研究した。特に、光照射後の反応ダイナミクスを実時間で追尾することにより、反応の詳細なメカニズムについて新しい知見を明らかにし、反応ダイナミクスへの微視的溶媒和の効果を理論的に予測した。具体的には、(a)ベンゼン-水・クラスター、および(b)フェノール-水・クラスター、のイオン化に伴う反応ダイナミックスを理論的に研究した。ベンゼン-水系では、イオン化後、水が脱離するチャンネルと、ベンゼン水のイオン錯合体ができるチャンネルがあることを明らかにした。こられのチャンネルは、温度によって制御できることを明らかにした。
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