物質の構造を決定するために、原子間距離と同程度の波長の単色X線を用いたX線回折がよく用いられる。近年、構造変化・相転移を起こしつつある系のX線回折時分割測定に多大な関心が寄せられている。我々は、X線の代わりに、高強度のレーザーで誘起した再衝突電子を用いた電子散乱実験を行うことで、分子の構造変化をフェムト秒の時間スケールで捉えることを目標に研究を行っている。 分子をターゲットとした実験では、再散乱電子の空間運動量分布はレーザーの偏光方向(=再衝突電子の衝突方向)に対して分子がどのように配向しているかに強く依存する。従って、気相中のランダムに配向した分子の場合、さまざまな配向の分子での電子と分子イオンの弾性散乱による再散乱電子運動量分布の重ね合わせとして観測される。 C_2H_4およびC_2H_6分子をターゲットとし様々なレーザー強度で再散乱電子の2次元運動量分布を測定した。得られた運動量スペクトルから実験的に抽出した。C_2H_4分子について電子・分子イオン弾性衝突による微分散乱断面積の衝突運動量依存とその理論計算値を比較した。計算では、高強度レーザーによる分子のイオン化確率の配向方向依存性の計算値を用いて、それぞれの分子配向に重みを付けて平均化を行っている。この分子はHOMO軌道が分子面に対して垂直方向を向いていることから、レーザーの偏光方向が分子面に対して垂直方向を向いたときにイオン化確率が最大値を持つことから、アラインした分子からの再衝突した電子のスペクトルを観測することが出来る。理論計算と広範囲で比較的良い一致を示すことから、非直線多原子分子においても強光子場中での再散乱電子の2次元運動量分布の測定から電子・イオン衝突微分断面積を見積もることが可能であることを示した。このことは、非直線多原子においても、分子構造に関する知見を本実験手法で得ることが原理的に可能であることを示している。
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