ラジカル反応の立体効果は、衝突時に反応する分子同士の配向の違いにより、反応性が変化する興味深い現象であるが、その詳細は未解明である。本申請課題では、ラジカルクラスターを利用して、立体効果を中心に、ラジカル反応の詳細を分子レベルで理解する事を目的とする。初年度にあたる平成21年度は、大気化学反応過程で重要な役割を果たしている基本的なラジカルである一酸化窒素(NO)ラジカルが弱い分子間相互作用によりHe原子と結合して形成されるHe-NOクラスターの純回転遷移の探査を行い、気相中における検出に初めて成功した。ArやNeなどの他の希ガス原子から成るクラスターと比較して、Heクラスターは結合エネルギーが非常に小さい。そのため、 (1)分子間振動の励起状態が存在しない。 (2)He原子はNOラジカルの周りを自由に動き回っている。 など、他の希ガスクラスクーには見られない特異な性質を明らかにした。更に、NOラジカルの不対電子の存在する方向に大きな引力が働いていることが判った。これはラジカル反応の立体効果と不対電子の関係を示唆する重要な結果である。本研究では特異なエネルギー構造をもつラジカルクラスターの高分解能分光データを基に、分子間相互作用ポテンシャルを決定する新しい解析手法を開発した。更に、この解析を適用して決定した分子間相互作用ポテンシャルから、NOラジカルの不対電子の存在する分子軌道を3次元的に可視化する方法を考案した。これはクラスター形成に伴って、不対電子軌道がどのように変化しているかを直接観測できる手法として画期的な方法である。
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