HOCOラジカルは、OHによるCOの酸化反応における最も安定な反応中間体として注目されてきた。特に大気中に普遍的に存在するH_20存在下での反応性について興味が持たれ、近年H_20が触媒的にHOCOの反応性を高める働きがある事が指摘され注目されていた。我々はH20とhOCOラジカルの1対1のラジカルクラスター(HOCO水和クラスター)を、マイクロ波分光法により検出する事に成功した。観測スペクトル中に見られた、HOCOラジカルの不対電子のスピンとプロトンの核スピン間の磁気的相互作用に由来する超微細構造から、HOCOラジカルが水和クラスターを形成する事によってラジカル内の不対電子密度が変化している事実を明らかにした。この成果はHOCOラジカルに対する水分子の触媒効果を分子レベルで検証した初めての実験例である。更に、得られた分子構造を良く再現する高精度のab initio計算を行ったところ、水和クラスターの結合エネルギーは約9kcal/molと大きな値である事がわかった。これは単純な水素結合による水2量体の結合エネルギーの2倍程度であり、水素結合のみでなくラジカルの不対電子が占有するSOMOが分子間の引力として大きく寄与している事を示唆している。 2原子分子と原子から成る3原子系クラスターについて、その詳細な分子間相互作用ポテンシャル曲面を分光データから決定する手法を開発する一環として、本研究において開発してきたプログラムを改良してAr-COの全データ同時解析を行った。このクラスターは20年以上にわたって分光実験が行われてきた系であり、赤外、遠赤外、マイクロ波領域にわたって膨大な分光データが蓄積されている。そのほぼ全てのデータを同一のポテンシャル曲面を用いて再現する事に成功した。
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