「粉末結晶解析による有機包接結晶の固相反応の解析」の第二年目として、有機光固相反応、および固相転移の三次元構造的研究を行った。光固相反応では昨年度に発見した新規な桂皮酸エステル誘導体の結晶相光二量化反応について調べた。誘導体により結晶構造が異なることから、光反応性の有無が理解できる。実際に単結晶に紫外光を照射しながら時分割的にX線回折強度測定を行ったところ、初期構造と[2+2]反応による二量体の割合が逐次変化する様子を捉えることに成功した。これは結晶相を保つ固相反応の明確な証拠であり、構造から推定されたメカニズムが正しいことを明らかにした。さらに、この固体について物性を調べたところ、光反応で生成する二量体は紫外線吸収能が著しく低下することが判明した。これは桂皮酸エステル誘導体を紫外線吸収剤として用いるための条件を結晶構造に基づいて規定する基準を示したものであり意義深い。次年度は、これらの結果をまとめることで光固相反応と物性変化に関する相関を明らかにする。一方、医薬品原薬ではその結晶構造により溶解度や安定性が異なり、薬効にも影響することから、水和・脱水和による疑似多形転移が注目されている。このような固相転移の研究として、セファレキシン水和物について調べた。この医薬品原薬は2水和物が安定であるが、加熱により無水和物を含む5つの水和相を持つことがDVS測定により判明した。さらにXRD測定によりこれらの相は互いに類似しており同型脱溶媒和物であることが判明した。粉末未知結晶構造解析により3つの相の構造決定に成功して構造比較を行ったところ、分子構造や相対的な位置は類似しており、その隙間に水分子が侵入しながら構造全体が膨張するという特別な転移挙動を示す頃が判明した。
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