「粉末結晶解析による有機包接結晶の固相反応の解析」の第三年目として、有機光固相反応の三次元構造的研究のまとめを行った。光固相反応系では本研究で見いだされた新規な桂皮酸アミド誘導体の結晶相光二量化反応について詳細に調べた。本誘導体は置換基であるヒドロキシル基の位置により固体状態での光反応性の差が生じる。具体的には単結晶に紫外光を照射すると桂皮酸の二重結合部位で[2+2]反応による二量体(シクロブタン環)が生じるが、分子の置換基の位置が異なる誘導体では結晶状態で光二量化反応を起こさない。これを説明するために複数の誘導体について単結晶構造解析を行い構造を比較した。興味深い事にいずれの結晶でも二重結合間の相対位置はシュミット則を満たしており、互いに光反応可能な距離4.2A以内で平行性にも問題がなかった。このように光固相反応に有利な結晶構造を持ちながらも反応が進行しない理由を検討するために、分子が持つ結晶中の反応空間Cavityの計算を行った。結晶相反応では反応物が有するCavityと反応生成物の分子外形が類似している事が反応進行上有利であると考えられるが、予想通り光固相反応が進行する結晶では反応生成物分子がCavity中に無理なく収まっているが、反応が進行しない結晶では反応生成物を無理なく収めることができず、一部がはみ出すことがわかった。以上より、本系は光固相反応の一般則として広く用いられているシュミット則を破る例であり、固相反応には反応中の分子が動くことができる空間として充分な大きさと形状を持つCavityが必要である事を示した。前年度までに、本誘導体の紫外線吸収能について報告しているが、本誘導体を紫外線吸収剤として用いるためには、分子の吸収スペクトルだけでなく、結晶状態での分子の安定性、つまり光固相反応の有無も重要な検討ポイントであり、これに関して新しく反応空間Cavityの重要性を提案できた事は実用上からも大きな成果である。
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