電子供与体として用いる二量体系Cz化合物を合成し、高純度に精製した。ホスト高分子として、メタクリレート系高分子を選択した。モノマーを最終的には真空蒸留により高純度に精製し、そのまま封管・熱重合した。得られた高分子は、電荷移動(CT)錯体の励起波長の光の照射で全く発光を示さず、使用可能な無蛍光性であった。またポリカーボネイトの高純度物を入手できた。電子受容体としてはテトラシアノベンゼン(TCNB)を精製後使用した。 置換基の異なるいくつかのCz化合物とTCNB系の、孤立した単一CT錯体の蛍光を蛍光の時間分解測定が可能な共焦点顕微鏡で、その蛍光強度・蛍光寿命の経時変化を測定し解析した。蛍光イメージのCz化合物の濃度依存性と蛍光が一段階で消滅することから、単一のCT錯体蛍光を観測できていることを確認した。単一CT錯体の蛍光強度の経時変化のトレースに観測された1秒以上のoff-timeは、その出現頻度がC環の置換基のバルキーさに依存していることから、過渡的なCT錯体の解離あるいはCT錯体周囲の環境の揺らぎに依ると判断した。ホスト高分子として、3種のメタクリレート系およびポリカーボネイトを用いて、更に検討を進めている。 CT錯体ナノ結晶の生成は原子間力顕微鏡でサイズを確認できた。単一CTナノ結晶の蛍光挙動はおおよそ3種に大別できることが分かったが、大きなサイズの結晶のそれと異なる挙動を示した。Cz化合物とTCNBの濃度比を変えるなどして検討しているが、説明に苦慮している。 Cz系でのエキシプレックス蛍光の観測は、電子受容体の選択や励起波長に限りがあり、また検知器の波長範囲の問題から困難であると結論した。電子供与体をCz化合物からピラゾリン系化合物に変更したが困難であった。現在、デュレンとジシアノアントラセン系で観測を試みている。観測できれば、基底状態で相互作用の無い2つの分子を単一分子蛍光分光法で観測する最初の例になる。
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