研究概要 |
本研究では,凝集系や生体内における反応の中でも基礎的で重要なプロトン/水素原子移動反応に着目し,長距離のプロトン/水素原子リレー反応のモデル系としてペプチド鎖に沿ったリレー反応の観測を計画した。本年度は昨年度に引き続き,反応前駆体となるフェノールとペプチドの中性水素結合クラスターの生成方法の確立を目指し,フェノール-グリシンクラスターの生成条件を検討した。これまでに測定したクラスターの電子スペクトルは非常にブロードで構造がなかった。これが,クラスターの冷却が不充分であるか,あるいは励起状態の寿命が短いためなのかを確認することが,まず解決しなければならない問題である。当初用いていたアミノ酸をカーボンパウダーと混ぜて成型した試料を用いたレーザー蒸発法により気化させる方法では,冷却されたクラスターを作ることが困難であった。そこで,実験条件の確認をするために,加熱による試料の気化を検討した。また,量子化学計算を行い,クラスターの電子励起状態を検討したところ,実験で励起に用いるππ^*励起状態の近傍にアミノ酸のカルボニル基におけるnπ^*型の三重項状態が存在することが示唆された。三重項に関しては,2波長2光子イオン化法などで,関与を検討することができる。本研究では,イオン化を目的としているので,三重項状態の存在自体は大きな問題になるとは考えていない。来年度は最終年度となるので,イオン化後の構造と前駆体の初期構造との比較からプロトン移動反応について考察を深める予定である。
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