研究概要 |
近年、申請者は、「環境の動的効果」という新たな概念を提唱した。これは、環境部分の熱振動が反応部分の熱振動(エネルギーの揺らぎ)を増大し、反応を促進するというものである。これらの結果は2007年にJPC(B)等で発表した。本研究の目的は、環境部分の熱振動の反応性への効果を明らかにして新たな化学反応理論を構築し、酵素の反応性評価に応用することである。 我々は、細菌やバクテリアから人体を保護する上で重要な働きをする酵素として一般的によく知られているリゾチームにONIOM分子動力学法を応用し、活性サイトポケット内での基質のエネルギーの揺らぎが酵素の環境の熱振動の影響を受けていることを指摘してきた。酵素の環境の熱振動が基質のエネルギーの揺らぎを大きくし、反応性を促進している可能性がある。同様な環境の熱振動の効果を有機金属錯体反応でも見いだしてきた。しかし、中心部分のエネルギーの揺らぎは、環境の自由度にも依存する可能性がある。そこで、本年度は、自由度が同じで環境の異なるモデル分子、cis-Pt(H)_2(PR_3)_2(R=t-Bu,n-Bu)およびMe(R)C=C(R)Me(R=t-Bu,n-Bu)を採用し、自由度が同じ条件下での中心部分のエネルギーの揺らぎへの環境の熱振動の効果を調べた。その結果、自由度が同じでも分子の込み合いの程度が大きいと中心部分のエネルギーの揺らぎが大きくなり、これまでの計算結果を支持する結果を得ることができた。
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