酵素は、活性サイトにおいて温和な条件下でも反応を効率よく行うことができるが、その理由は長い間明らかにされないままである。その理由を解明する糸口として、分子を反応部分と環境部分に分劇し後者の前者に及ぼす新らたな効果に着目している。反応座標の振動モードが示唆するように、大規模分子の反応部分は反応に直接関与する原子とその周辺に局在化しているので、反応部分と環境部分に分割する考え方は妥当であると考えられる。近年のONIOM法を代表するハイブリッドQM/MM法などのマルチスケールシミュレーションによるタンパク質め解析は、この考え方に立っている。そこで我々は、分子系全体の熱振動を考慮し、反応性を左右する新たな効果として反応部分のエネルギーの揺らぎを増幅させる環境部分の効果に着目している。そして我々が開発したONIOM-MD法を用い、まず簡単な有機分子や有機金属錯体などのモデル分子でその解析を行っている。反応部分のエネルギーの揺らぎは環境の自由度にも依存する可能性があるため、まず、自由度が同じでも分子の込み合いの程度が大きいと反応部分のエネルギーの揺らぎが大きくなることを確認した。ONIOM-MDシミュレーション中の分子全体のエネルギーの揺らぎは理論値と一致するが、反応部分のそれは、理論値の約2倍大きかった。この結果は、これまでの理論式から説明できない環境の効果の存在を示唆している。逆に中心部分の領域を広げると増大していたエネルギーの揺らぎは小さくなり、理論値に近くなった。環境から受ける力の負荷の揺らぎが反応部分のエネルギーの揺らぎと関係していることが分かった。この反応部分のエネルギーの揺らぎの増大は、特定の構造パラメータには反映されていないことが分かったが、振動励起などを通して反応性に寄与していると考えられる。これらの関係を明らかにすることで新規反応理論の構築が期待される。
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