研究概要 |
イオン種は溶液中では溶媒和により特有の構造と反応性を示す。陽イオンはH_3O^+(H_2O)_nのように溶媒和したイオンとして存在する。陰イオンはQH^-(H_2O)_nのように溶煤和した陰イオンとして存在する場合もあるが、無極性溶媒や極性溶媒でも多くの場合は溶媒和電子の形で存在すると考えられる。これら構造と物性の研究はまだ未開拓の分野であり液相中の化学反応解明の上で極めて重要である。本研究では前期解離分光法や電子脱離分光法と高分解能分光法を組み合わせイオン錯体や溶媒和電子の分子構造決定手法を開拓する。 平成21年度はイオンビーム実験を行うための真空装置の設計製作と光入射用に特殊改造した質量分析計本体および電子衝撃イオン源の取り付けを行った。ANELVA AQA-360四極子型質量分析計で、四極子を通過したイオンをリフレクターで反射して垂直に配置した2次電子増倍管でイオン検出する方式に改造し、四極子と同軸に近赤外光を入射するための石英窓を取り付けた。陽イオン錯体は、超音速ジェットをスキマーで切り出して分子錯体を含む分子線を生成し、電子衝撃イオン化により生成する。四極子および検出部は、購入したターボ分子ポンプで排気した。現在、真空およびイオン検出の初期テストを行っている。陰イオンおよび陰イオン錯体(溶媒和イナン)を効率よく年成するため、エレクトロスプレーイオン源や熱電子付着イオン源を設計・製作中である。また平行して、近赤外分光装置の立ち上げを進めている。今後、生成効率が高くなるようにイオン源やスキマーを改良し、高分解能分光法による観測を試みる。陽イオン錯体はOH, NH, CHの2倍音や3倍音を近赤外レーサーで励起し前期解離させて質量分析計で検出する。陰イナンおよび陰イオン錯体や溶媒和電子の検出には電子脱離分光法を用いる。Ar-H_3O^+などの陽イカン,OH^-などの陰イオンを用いて初期テストを行い、その後、(H_2O)_n^-などの溶媒和電子について本格的な分光実験に移る予定である。
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