1.量子力学的共鳴状態は、有限の寿命で崩壊する一時的な準束縛状態である。特に、複素座標法を用いた電子系共鳴状態の計算には、束縛状態と共鳴状態を記述する実数基底と、連続状態を記述する複素数基底が必要である。数値計算を軽減するために、複素数基底の個数を最小限にし、かつ精度を落とさないように、複素数エネルギー固有値や振動数依存分極率に対する変分法を用いてその複素数軌道指数を最適化する計算方法を開発している。 2.これまで光イオン化断面積の計算のために、振動数依存分極率(以下では単に分極率とよぶ)について複素軌道指数を最適化する計算手法を開発してきた。今年度、以下の点を明らかにすることができた。 (1)水素原子の光イオン化に対して、複素軌道指数を持ったSlater型基底関数を1~4個使用し、分極率αが満たす変分原理に基づき、各光子エネルギー(ω)毎にその軌道指数{ζi}に関するαの解析的1次微分と2次微分を計算してNewton-Raphson法で最適化するアルゴリズムで最適化したところ、断面積を非常に高精度に得ることができた。さらにこの時に最適化した波動関数は、光子場を摂動として生じる1次の摂動波動関数であり、その虚数部分は正則クーロン波に対応すること、分極率に対する変分原理とHylleraasの摂動変分法との間の関係などを明らかにすることができた。 (2)基底関数が1個だけの場合、分極率の実数部分も虚数部分も、それぞれ複素数軌道指数ζを変数とする調和関数として振る舞い、ラプラス方程式を満たす。この性質を用いて、実軸上のζ(および虚軸上のζ)に対してαの振る舞いをフィットし、必要な計算量を軽減するアルゴリズムを考案した。
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